医療従事者と合同写真展を開催中です。場所は軽井沢にある診療所「ほっちのロッジ」。
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「診療所」を撮る
白衣を着ていない、だれが院長で看護師なのかわからない、受付がない。真ん中に大きなオープンキッチン、水の音、鍋をうごかす音がする。12時近く、良い香りがしてくるのは汁物が添えられるランチの合図だ。木の温もりを感じる、天井が高いハウスには基本的に仕切りがない。子どもが縦横無尽にハイハイをし、最近よくお尻があがるようになったねとスタッフが顔をほころばせる。奥の部屋では「子どもアトリエ」の準備だ。今日は書道をするらしい。反対側はテーブルとソファ。杖をつくおじいちゃんと訪問ケアの相談にきた家族に耳を傾けるスタッフがいた。カメラを持ちウロウロする私に訝しげな視線を送る人はいない。診断を受けに来た女性がニコリという「ここはいろんな人が居るから」。大きな窓には軽井沢の針葉樹、落葉松にカエデ、ハーブやバラを植えた小さなガーデンもある。森か庭かわからない景色は、天候と季節によって映る色も風も違う。
やがて、医療従事者の想像を絶する多忙さ、気の張る日常が見えてくる。中央にはちゃぶ台があり、それを囲みながら毎朝行われるミーティングの会話に私は耳を疑う。深夜から明け方にかけてのお看取り訪問の報告。菜緒さん、のぶさん、昨日もずっと働いていたよね、「先生」ではなく愛称で呼び合うこの診療所の医師とクラークに対し、私は心でそうつぶやく。他のスタッフたちが、診察と看護を続けてきた方の最期の様子に耳を傾け、そしてご家族の様子を尋ねる。フリースを着た医師が畳の一角に横たわり、太鼓をたたく小児の横でゴロンと仰向けになった。傍目には子どもとゴロゴロする日曜のお父さん。「この天井光、やはり眩しすぎるな。」自分の意思で体を起こせない、その子の視線の先を確認していた。私は黙って彼らを目で追う。ずっと人の話をしている、自分たちのことではなく、ずっと「利用者さん」の状況報告、ケア法や相談、アプローチの仕方、確認。私の目の前にいる人たちは「他人」の心配りばかりしている。
人と接することは力がいる。まして彼らの相手は体調が良くないのだ。だから駆けつける。医療行為は人生に立ち入る仕事。生き様も身体も違う人々と向き合い、話を、相談を受けている彼らには同じ現場が2度とない。生々しい現実と向き合う彼らの、使う力はいかほどのことだろう。私には想像もつかないが、医療従事者とはなんてタフでなくてはならないのだろうか。だからこそ、この「空間」を作った人々がいる。そうしてこう名付けた、「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」。
暖かく晴れた秋の午前。滞在撮影のお礼にSNSやビジネスに使える顔写真の撮影会を催した。せっかくだからお化粧直しでもと促すと、鏡に向かい髪を整え始める。突然「ピンポーン」とベルが鳴る。先日お看取りした婦人のご家族が大きな袋を持って玄関に立っていた。ぜひ、ほっちの皆さんでこれらを着てください、ありがとうございましたと故人の未使用の洋服を持っていらしたのだ。受け取った彼女たちはむっつの大きな袋を囲んで色めき立つ。早速洒落たワンピースを”いつもの仕事服”の上に引っ掛けてカメラの前に立ってもらった。被写体になったり、レフ板を持つ側になったりするほっちのロッヂの医療従事者たちにいつもと違う表情が現れる。「次の訪問先出発まで10分しかない!」早く撮らなきゃとわずかな時間に華やいだ。
この撮影を支え続けてくれるほっちのロッヂ文化企画部の唐川恵美子さんに心より感謝を込めて
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期間:2021年11月29日〜12月25日 場所:ほっちのロッヂ(北軽井沢発地1274-113)
主催:ほっちのロッヂの文化企画