作家 阿川佐和子氏 新刊「老人初心者の覚悟 」

私が撮影した写真を帯に使って頂いた「老人初心者の覚悟 」が中央公論新社から送られて来た。 _AGN5829

エッセイの名手、阿川佐和子さんの新刊は、前作に続き日々の出来事、感じたことを書き綴っている。亡きお父上との逸話はコメディ映画のワンシーンのようで笑ってしまうし、弱気になったり強気になったりする姿に思わず共感する。

多岐にわたるご活躍、あのエネルギーはどこから来るのだろう。現場でみる阿川さんは小柄で可愛いらしいが、頭の回転がキレッキレで、ハッとする視点を教えられることもしばしばだ。ベストセラーに、介護にとお忙しかったであろう頃も、現場のスタッフに疲れた姿を見せることはなかった。

初めて阿川さんを撮影したのはいつだったけと思い返す。まだ出版社の社員カメラマンだった30代前半、フィルムで撮影していた時代。配属先の編集部では、ベテランに囲まれて右往左往し、また自信の無さが写真に表れ注意を受けていた。「いい時と悪い時の写真の差が激しい、それはプロとは言えない」全くだ、と落ち込み、迷路に入っていた時期だった。

そんな時に阿川佐和子さんのページ撮影を言い渡された。この時の現場の自分の立ち振る舞いがどうだったかなど到底覚えていない。うまくいった感覚はもちろんなかった。それから約1年後、上司から撮影の担当を再び言い渡された。その時の驚くべき一言を私は覚えている。「ご指名よ」

阿川さんは私に優しい。何気なく気遣ってくれる。独立後も番組のポスターの撮影を担当させていただいた。特に4年続いた、彼女がファッションモデルとなり着こなしを学ぶという定例ページは、一人の著名な方を定期的に撮影することで多くのことを学ばさせていただいた。一つには撮影前に言葉のコニュニケーションを無理に取ろうとすることをやめた。ページ上で求めていることを簡潔に伝える。メディアという大舞台で長年活躍される方々は総じて勘が良く多忙だ。私の下手な会話より、必要なことを伝え、短時間でリズムよく進める方が良い誌面結果が出ると思った。さらに被写体を信じることも学んだ。

先日鼎談撮影で久しぶりにお会いした。いまは年に1、2度こうして撮影できる機会を頂く。彼女は指定位置に立つ直前に私の撮影台に寄ってをメガネを置いて行く。今回も変わらず、近くに来てメガネをパソコンの横に置かれた。そこには先日買ったばかりの不肖の老眼鏡も置かれていた。2つ並んだ老眼鏡をみて編集者が言った。「フレームの形や色が似てますねぇ」なんだか嬉しかった。

記載日2019年12月17日