篠山紀信氏 プロほどわかる巨匠の凄さ

日大芸術学部の1年生の時、篠山紀信さんが学生に向けて講演にいらっしゃいました。素晴らしい写真が次々に映し出され、パワーと喋りのおもしろさに圧倒され、講堂はあっという間に笑いと熱気の空間に変わったのを覚えています。第一線のカメラマンはやはりすごいなと思ったものです。

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昨年末に婦人公論誌用に撮られた樹木希林さんの前で。

今週店頭に並んでいる雑誌「婦人公論」10/8号で巨匠を撮らせていただきました。

篠山さんの凄さはプロカメラマンほどわかるかもしれません。フィルム時代に、重くて大きく、操作も面倒な大判カメラを使って撮影されています。それゆえに大伸ばしのプリントも美しいです。大衆に向けた写真にこだわり、常にトップクオリティーの仕上がりを目指されていたのではないかと思います。

大相撲の集合写真などは8×10を3機並べて撮影したと聞いたことがあります。光量もシビアな時代。どれだけ大変なことか。。それ、、やりますか。。という撮影への熱量。

また人気絶頂期のタレントは撮影時間がありません。「実際の現場はバタバタしている」と内覧会でもおっしゃっていました。山口百恵さんがビキニを着て水辺で寝そべっている有名な写真。「どうしてこんな写真が撮れたのかってよく聞かれるのだけど、きっと彼女は疲れて眠かったんだよ!」と謙虚なジョークを飛ばして取材陣を沸かせます。

自分の都合だけでは動けない仕事の撮影現場。そのバタバタの中に「写真の神様」を降ろすのですからやっぱり巨匠です。

篠山紀信展 写真力 」 Gallery AaMo 東京都文京区後楽1-3-61 東京ドームシティ10月27日(日)まで

 

投稿日2019年9月24日

 

 

作家吉村昭にハマる 「関東大震災」

きっかけはなんだったんだろう。吉村昭の小説「漂流」を読み、続けて「破船」を読了。読み出したら止まらない、恐るべし吉村昭。中毒になった私は防災の日にちなんで菊地寛賞受賞作「関東大震災」に手を伸ばしました。71wUN7EtP-L.__BG0,0,0,0_FMpng_AC_UL320_SR222,320_.jpg

こちらは小説ではなくノンフィンクション。淡々と細やかに描写され、私の頭の中はそこからイメージされた映像が回り始めます。

まず惨事が自分の想像を超えておりました。防災意識は江戸時代の方が優秀だったと指摘されていますが、そのため被害も甚大に。そして情報が無い中に飛び交うデマに次ぐデマ。人々の神経衰弱による判断の低下、治安の悪化。衛生問題から深刻な人道的問題まで克明に書かれています。場当たり的な行動と過密都市でならではの人の振る舞いの恐ろしさを改めて考えるきっかけになりました。

災害時、私は噂や情報の鵜呑みは一切しないと決めました。

記載日2019年9月22日

 

 

 

 

 

ロバートキャンベル 井上陽水英訳詞集

作品テキストの英文を作っています。私の英語力は永遠の初中級レベル。日常に英語力の必要がない(言い訳です)私は、たまにダラダラとアプリで勉強するだけ。一向に上達しません。

今回は詩的表現が多数あるため自分で翻訳しようと決めたものの悪戦苦闘。その折この本をたまたま見つけました。

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本が、必要に応じて向こうからやってく来ることありませんか?本屋をフラフラするとなんだか呼びかけられているような、その棚を見ると気になるタイトルが。

日本人がもつ時制感覚。自分たちが気に留めていないものの、西洋文化から見るとかなりユニークに感じるという肌に染みついた森羅万象の感覚。それを言葉にした時の英訳の壁、それはそれは大きな壁。写真家や画家なら経験があると思います。

キャンベルさんは西洋人の文章や物事、その捉え方の違いをわかりやすく、様々なかたちを挙げて教えてくださいます。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

言わずと知れた川端康成の「雪国」。この一文だけで、日本人である私たちは様々な情景や予感、含み、そして美しさを感じます。放映されていたドナルドキーン氏と川端氏の対話も例に上げ、キーン氏が「どこに主語があるのだろう、男女の会話は何を意味するのだろう、多くの部分が曖昧なのです。」と英訳するにあたっての苦悩を告白するというエピソードは衝撃でした。(川端氏がどうお答えになったかは是非本文中でご確認くださいませ)

キャンベルさんが天才井上陽水の歌詞世界をどのように英文のピースに入れていくのか。その考え方や作業法がとても参考になりました。私は自分が持つユニークな感覚を、西洋ルールで潰してはいけないと思ってきました。この感性を肯定し、うまく言葉に起こすことに時間を必要としました。

日本古典文学を熟知するキャンベルさんだからこその愛と熱意、それに応える陽水さん。お二方がとても勇気を与えてくれる本を世に出してくださいました。

2019年9月15日記載